テクノロジー

選ばれる不動産会社の条件
ーDXで変わる不動産会社とエージェントの在り方ー

近年、コロナ禍でテレワークが推進され、働き方が変化するなかで注目を集めてきた「企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)」。

デジタル技術を活用してビジネスモデルを変革し、競争上の優位性を確立するDX化に多くの企業が取り組んできました。

不動産業務においても、法改正による契約の電子化や不動産テクノロジーの進化が追い風となっていますが、DX化が加速する時代に企業やエージェントには何が求められているのでしょうか?

ハウスコムでは、「HOUSECOM DX Conference」を定期的に開催し、様々な業界で活躍されている先駆者をお招きして、デジタル社会での暮らし方や働き方を議論しながら、常に新しい事業を生み出してきました。

第4回SESSIONのテーマは「Real Estate DX」。正直不動産原案者の夏原武氏、誠不動産株式会社代表取締役の鈴木誠氏、Freedraw株式会社代表取締役副社長の高柳 裕司氏をお迎えして、DX化時代にお客様から選ばれ続ける不動産会社とエージェント(仲介業者)の条件についてお届けします。

登壇者

夏原 武氏
正直不動産原案者
作家・ルポライター・漫画原作者
著書に『バブル』『現代詐欺師 シノギの手口』など
現在「ビッグコミック」で連載中、NHKでテレビドラマ化された『正直不動産』の原案を担当。『クロサギ』『逃亡弁護士成田誠』『任侠転生ー異世界のヤクザ姫ー』『カモのネギには毒がある-加茂教授の〝人間〟経済学講義-』など多数のヒット作品の原案・原作を手掛ける。

鈴木 誠氏
誠不動産株式会社代表取締役
高校卒業後、1995年陸上自衛隊に入隊。NYへ留学。1998年A.P.CJAPAN株式会社を経て、2002年不動産業界に転身。2009年誠不動産設立、代表取締役就任、2020年REAN JAPAN理事に就任し現在に至る。集客・広告掲載を一切行わない「完全紹介制」がコンセプト。「住んだ後に幸せになっていただく空間」が仕事のテーマ。

田村 穂氏
ハウスコム株式会社
代表取締役社長執行役員
経営修士(MBA)中央大学大学院戦略経営研究科修了。中央大学商学部客員講師。在学中に宅建主任者の資格を取得。その後、不動産業界での経験を経て、1994年同社に入社。営業スタッフから1年で店長に抜擢される。自社のビッグデータを活用し、オープンサービス・イノベーションラボを展開。社会・地域に貢献できる不動産テック企業を目指す。

モデレーター

高柳 裕司氏
Freedraw株式会社代表取締役副社長
2008年に株式会社ネクスト(現株式会社LIFULL)に入社。賃貸部門にてLIFULL HOME’Sの広告販売の営業〜管理職を経て、2014年〜B2Bの事業立ち上げのPJ責任者を努め、2016年同社子会社(旧株式会社レンターズ)取締役就任。2020年Freedraw株式会社設立。同年12月に賃貸仲介特化型研究会「REAN JAPAN」事務局長

最後に選ばれのは、人間として尊敬される魅力的なエージェント

ー最近は、お部屋探しにSNSを利用するお客様が増え、会社の物件情報や口コミがオープンになりましたが、誠不動産のお客様に変化はありましたか?

鈴木
弊社は完全紹介性でテレビ番組やネットで見た方はお断りしていますし、SNSは利用していないので、現在もお客様の属性は全く変化しておらず、良いお客様しか来られません。

最近は、TikTokを利用してお部屋探しをされる方が増えていますが、想像していたよりも、かなり属性が良いお客様が多い印象を受けています。

弊社に紹介でいらっしゃるお客様のなかには、他の不動産で強引に申し込みを迫られたり、高圧的な態度を取られて嫌な思いをされた方もいますので、不動産仲介のレベルが下がっているのではないかと危惧しています。

夏原
一般的に、賃貸や売買仲介を考えている方は、駅前に店舗を構えていたり、大手の不動産に行きますが、そこで辛い思いをするケースが多いようです。

不動産は金額が大きいですから、1社で決めてしまわないで、必ず何社か回って見比べて、信頼できる営業マンに出会えたらその方と真面目に交渉して欲しいです。

田村
不動産業界全体でDX化が進んで業務効率が上がっても、知識や経験から「この人に是非頼みたい」という部分は変わらないと思います。

ー不動産会社のDX化で時間が生まれた場合、お客様と長く付き合うために、どのようなことに取り組むべきでしょうか?

鈴木
不動産、建物に対して知識をつけることで引き出しも多くなり、お客様にも信頼されますから、自分自身を磨くことに集中すれば良いのではないでしょうか。

勉強会に参加して知見を増やしたり、読書会に参加したり、自分自身に投資することが、仕事だけでなく人生にも良い影響を与えると思います。

夏原
最後は、人と人ですから、どれくらい人間の深みがあるかにかかってきます。契約までの話は巧みにできるけれど、それ以外の話を楽しめないようでは選ばれる営業マンとは言えないでしょう。

また、時間があれば、まずは宅建を取得することをお勧めします。

建築に関する専門書を読んだり、新都市整備法など法律にも興味を持ち、お客様からのあらゆる質問に答えられるように高みを目指すことをおすすめします。

最後までお客様に寄り添う覚悟と情熱を持つことで仕事が楽しくなる。

ー誠不動産の「契約はゴールではない、住んだ後こそが大事」まさにこれこそがお客様から選ばれるヒントなのでしょうか?

鈴木
私も不動産業界に入って3年間は「どんな部屋でも決まれば良い」「契約本数が多ければ良い」と考えてひたすら数字だけを追う営業スタイルでした。キャンセル率は3割で全く楽しくありませんでした。

しかし、お客様にとっては、お部屋が決まるまでがゴールではなく、住み始めてからがスタートです。そう考えるとゴールはありませんから、契約が続く以上は自分が責任を取るという気持ちで仕事をするようになってからは非常に楽しくなりました。

田村
弊社では、新卒は誠さんの講演を必ず聞くことになっていますが、そういう営業マンになってもらいたいという願いが込められています。

また、入居者側に立つのか、大家さん側に立つのかという立ち位置をはっきりさせたうえで、建築構造や法律を熟知することが重要ではないでしょうか。

夏原
どんな営業マンがお客様にとって良いのかは、営業マンの立ち位置を見れば自ずとわかります。

例えば、電話ひとつ取っても、お客様の生活ルーティンを守らないで、自分の都合で時間を決めてしまう方が非常に多いように感じます。

営業マンは「お客様と一緒にその部屋に住む」くらいの情熱を持っていなければ、「期末でノルマに追われているんだな」と簡単にお客様に見抜かれてしまうでしょう。

「お客様の人生を変える部屋探し」そこに嘘偽りはない。

ー今後、お客様に選ばれるために営業マンや企業のあるべき姿や目指す方向性などはありますか?

夏原
成約率やクレームなど良いことだけでなくそうでないことも全て情報を開示する透明性の高い企業が選ばれるのではないでしょうか。

お客様は素人ですから、仲介と管理の違いや契約の流れなどが完全に理解できていない方も多いので、インターネットなどバーチャル上で、契約のテストができたりすると良いですね。

不動産のDXは、ゲーム的な要素も取り入れて、お客様が楽しく身近に感じていただけるような遊びや余裕が必要だと思います。

鈴木
お客様は、お部屋の良いところばかりに目が行きがちですが、プロの営業マンは「隣の部屋のベランダが荒れている」「廊下にコンバットがある」など良くない部分も一瞬で察知できます。

お客様の人生が変わるのが部屋探しですから、良いことばかりではなく「ダメなものはダメ」とはっきり伝えられる営業マンや企業が信頼され選ばれるのではないでしょうか。

住んだ後も楽しく幸せになれるお部屋探しができれば営業マン自身も仕事が楽しいですし、そんな企業で働きたいという仲間が集まってくるでしょう。

不動産業界のDX化は「お客様の感動体験」を無視して、効率だけを追い求めて手間暇をかけない方向に進んではいけないと思います。

不動産業界は「アナログを良くするためのDX」であって欲しい。

ー最近は、実店舗を持たない企業も増えているようです。今後、DX化によって不動産会社のあり方はどのように変わっていくのでしょうか?

夏原
InstagramやTikTokで集客をして、店舗を持たずに紹介している企業もありますが、問題が起こった場合に最後まで付き合ってくれるかどうかは疑問です。

間口を広げる意味でSNSを利用するのは構わないですが、どこから入ったとしても、最終的には人と人のコミュニケーションなので、DX化で無駄を減らしたのならば、お客様と過ごす時間を増やして欲しいです。

どこまでいっても「アナログを良くするためのDX」だと思っているので、根本的な部分は変わりようがありません。

鈴木
夏原さんの「アナログを良くするためのDX」という言葉が深く心に刺さりました。弊社も店舗がなくても業務上は問題ないのですが、お客様に安心してほしいという気持ちから恵比寿に店舗を構えています。

若い方は店舗にこだわりはないかもしれませんが、私たち40代以上の世代は、同じ実績の企業なら必ず店舗がある方を選ぶでしょう。

個人的には、毎朝朝礼をやって、今日も一日頑張りましょうとスタートする方が人間味があって良いなと思います。

田村
ハウスコムは200店舗ありますが、地域にしっかりと根ざしていることを重視しています。DX化が進んでも、最終的に行き着くところは「ヒューマンライツ」ではないでしょうか。

ー最終的には人ということですね。最後に不動産業界がさらに良くなるための課題などはありますか?

夏原
不動産業界に従事する人間のステータスをあげるために営業マンが全員宅建を取得すること、そして、業法違反をしたら資格停止、剥奪もきっちりやって欲しいです。

今までは、単純に駅やインターから近ければ良いといった部屋探しですが、これからは、環境を大事にする時代になるでしょう。

街作りは行政の役割とされていますが、本当の意味で街づくりができるのは不動産屋であるということを意識してほしいです。

鈴木
お客様が住んだ後こそが大切ですから、長く快適に暮らせるような環境のお部屋を提供して、より幸せになっていただきたいです。
お客様の人生に関わっているという自覚を持った営業マンが増えれば不動産業界全体が良くなるでしょう。

田村
お客様が入居後のライフスタイルを鮮やかにイメージさせてあげることが営業マンにとって重要ではないでしょうか。そのためにも、地域に根ざした店舗作りを進めていきたいと改めて思いました。

終わりに

企業におけるDX導入の遅れは、企業の競争力や優位性を確立できない事態を招くと考えられており不動産業界も例外ではありません。

近年、不動産業界では、インターネットやスマートフォンを活用して物件情報を取得することが当たり前になり、自動音声案内やAI査定、オンライン内見やIT重説などDX化が急速に進んでいます。

しかし、最終的には人間同士の信頼関係なくして成立しないのが不動産業界ですから、どれほどDX化が加速しても、お客様を第一に考える姿勢やお部屋探しに懸ける情熱、安心感を与える知識と経験など営業マンが選ばれ続ける条件は変わらないのかもしれません。

DXの時代だからこそ「お客様の人生を変える部屋探し」「部屋探しはゴールではなく住んだ後が本当のスタート」という意識を営業マンが強く持つことがお客様の「成功体験」を導き、お客様との盤石な関係につながるのではないでしょうか。