テクノロジー

人類が描いた夢が現実になる!メタバースがライフスタイルに与えるインパクトとは

2022年、Web3やNFTとともにバズワードとして盛り上がりを見せているのが「メタバース」です。
この数年で、さまざまな企業がメタバースを活用した事業に興味を持ち、参入してきました。

しかし、メタバースとは何かという疑問に自信を持って答えられる人は少なく、理解しないままメタバースに関連する事業を進めてしまうケースも事例も多いのではないでしょうか。

ハウスコムでは、「HOUSECOM DX Conference」を定期的に開催し、様々な業界で活躍されている先駆者をお招きして、デジタル社会での暮らし方や働き方を議論しながら、常に新しい事業を生み出しています。

第一回目の第三セッションは「メタバースがライフスタイルに与えるインパクト」ついて、さまざまなメタバース事業を展開してきた加藤直人氏と、外資系企業で数々のマーケティングを成功させ「バーチャル渋谷」創設に従事されている長田新子氏をお招きして開催しました。

メタバースは私たちのライフスタイルをどのように変えるのか、リアルとバーチャルが融合していくなかで私たちは何をすべきなのか、メタバースで実現する少し先の未来をお届けします。

(2022年6月27日HOUSECOM DX Conference)

登壇者

加藤 直人氏
クラスター株式会社代表取締役CEO、一般社団法人MetaverseJapanアドバイザー

1988年生まれ。京都大学理学部で宇宙論と量子コンピュータを研究。同大学院中退後、3年間のひきこもりを経て2015年にVR技術を駆使したスタートアップを起業し、バーチャルSNS「cluster」を開発。著作『メタバース さよならアトムの時代』

長田 新子氏
一般社団法人渋谷未来デザイン理事兼事務局長、一般社団法人MetaverseJapan代表理事、NEW KIDS株式会社代表

AT&T、ノキアにて情報通信及び企業システム・サービスの営業、マーケティング及び広報責任者を経て、2007年にレッドブル・ジャパン入社。2010年から7年半をマーケティング本部長として、日本におけるエナジードリンクのカテゴリー確立及びレッドブルブランドと製品を日本市場で浸透させる。

モデレーター

田原 彩香氏
ビジネスタレント協会代表

ビジネス領域専門タレントの「ビジネスタレント」として、コンテストやアクセラレーターなどのイベントの司会進行や、経営者インタビュー、パネルディスカッションのモデレーター等を担当。2019年にビジネスタレント協会を設立し、代表に就任。タレントの新たな可能性を世の中に提案している。

田村 穂
ハウスコム株式会社代表取締役社長執行役員

「住まいを通して人を幸せにする世界を創る」をミッションとし、人工知能などのITテクノロジー、自社のビッグデータを活用した社会・地域に貢献できる不動産テック企業を目指す。

メタバースの世界観は40年前には存在していた?!意外に知られていないメタバースの歴史

ー最近「メタバース」という言葉を頻繁に耳にするようになりましたが、なぜこれほど盛り上がっているのでしょうか?

加藤:
メタバースという言葉が話題になったきっかけは、「Googleトレンド検索」によれば、2021年7月、旧Facebookのマーク・ザッカートが「メタバースを作る会社になる」と宣言したタイミングでした。
ちなみに、メタバースのトレンドは2回目で、1回目は2007年の「Second Life」ですが、今回の規模はかなり大きいです。

ーメタバースは最新のテクノロジーではないのですね。初めて「メタバース」という言葉が使われたのはいつですか?

メタバースという言葉自体は、1992年に「スノウ・クラッシュ」というSF小説で初めて登場しました。
メタバースの世界観は、「スノウ・クラッシュ」より、さらに10年前の1982年に公開された「トロン」という映画で表現されています。その後、2000年には「マトリックス」、2018年に「レディ・プレイヤー1」、「竜とそばかすの姫」「サマーウォーズ」などメタバースを題材とした映画が登場しました。

ー約30年以上前に小説や映画でメタバースが描かれていたのは驚きです。昔と今のメタバースに違いはありますか?

加藤:
メタバースについて考える場合、「イデオロギー」と「実装」を切り分ける必要があります。「土地や物質から解き放たれた生活をすべき」というイデオロギーの理想からすれば、今も昔も1%すら実現できていません。

しかし、ゲームやゲームを楽しむためのVR、再現するコンピュータグラフィックなど、「実装」は劇的な進化を遂げて、若い世代のライフスタイルを変えました。
例えば、「Roborock」や「cluster」のユーザ2億人のほとんどは小学生ですが、マックやファミレスに集まるのではなく、ゲーム空間で遊んだり会話を楽しんでいます。

現在のGAFAMはITビジネスが中心ですが、「イデオロギー」としてのメタバースを目指す方向に向かうのではないでしょうか。

ー実装としてのメタバースは15年でどれほど進化を遂げたのでしょうか?

加藤:
1965年に発表された「ムーアの法則」によれば、半導体回路の集積密度は1年半〜2年で2倍になるとされています。この法則は、破られるのではないかと言われながらも継続していて、2025年に生産が予定されている超先端半導体は 2ナノ(ナノは10億分の1)まできました。

メタバースは、最初に話題となった2007年から15年経っていますから、2の10乗で1000倍の計算機能があがっていることになります。特に、15年前には存在しなかったスマートフォンにおける「複数のICチップを統合し小型化する」SOCの技術は、VRのレンズやセンサーの小型化や軽量化に貢献しました。

さらに、現在はベースになるプラットフォームや通信のインフラが全く違います。
現在、インターネットには、80億人中40億人が接続していて、そのうちの30億人がゲームユーザーですから、15年前とは比較にならないほど「実装」は進みました。

「渋谷区」公認の配信プラットフォーム「バーチャル渋谷」の魅力とは

ーバーチャル渋谷はどのような経緯で誕生したのでしょうか?

長田:
バーチャル渋谷は、「渋谷区」公認の配信プラットフォームで、バーチャルイベントプラットフォーム「cluster」アプリをインストールすれば、スマートフォン・PC・VRゴーグルから利用できます。「渋谷未来デザイン」「KDDI株式会社」「渋谷区観光協会」の三者が連携して、渋谷らしい文化や空間をリアルと共にお届けしています。

かつて渋谷と言えば「いかに多くの人が集まっているか」を象徴する街でしたが、コロナ禍では「人が消えた街」として報道されるようになりました。街から人が消え、インバウンド需要もないなかで、バーチャル上で新しい街を作り上げ、体験者が100万人以上の都市連動型メタバースが誕生しました。

コロナ禍の2年間は、いわゆる実験期間であり、リアルが再開するこれからが「バーチャル渋谷」の真の価値を問われる時期になると思います。

ー私も「バーチャル渋谷の」イベントに参加しましたが、リアル以上の渋谷が再現されていて本当にワクワクしました。メタバースだからこそできることも多いのでしょうか?

加藤:
初めは、現在のリアルな渋谷ではなく「攻殻機動隊の渋谷」を作ろうとしていました。渋谷には、長い時間をかけて積み重ねた歴史や文化がありますが、メタバースには土地という概念がありません。リアルな街が持っている歴史や文化をうまく取り入れながら、物質に依存せず、時空を超えるメタバースの良さを融合させたいです。

長田:
2年間メタバースでイベントを開催し、私自身も参加してきましたが、アバターを介して、普段の自分とは全く違う自分になれることに魅力を感じます。性別や国籍を超えた交流ができるだけでなく、創成期のメタバース空間ではクリエイティブな方も多く、好きなことを共有するのが最高に楽しいです。

加藤:
私はメタバース上では鳥の姿になって歩き回っていますから、もはや人である必要もありません。会社が運営する「cluster」では、ゲームをしながら生活している人が大勢いますし、既に数々のコミュニティも存在しています。

メタバース上では、年齢や性別に依存しませんから、仲良くなった2人が10代と50代だったり、リアルでは一度も会ったことのないもの同士が付き合っているケースもあります。

ちなみに、私は30代ですが10代と仲良くなれる気が全くしません。リアルな世界では、年齢や性別、人種によるバイアスやバリアが少なからずあるものですが、メタバースの世界ではそういった柵にとらわれない繋がりが構築できます。

「cluster」では、アーティストのライブや鬼滅の刃とのコラボイベントなども開催していますから、幅広い年齢層の方が利用していますが、その中でもヘビーユーザーは、10代から20代の独身が圧倒的に多く、どっぷり浸かるしハマっている印象があります。

メタバースと不動産は相性抜群!国境を越えた最強のインバウンドが実現する

ーメタバースは不動産の見せ方や伝え方と相性良さそうな気がしますが、企業がメタバースを取り入れる際に気をつけることはありますか?

加藤:
不動産に関してはフェーズが2つあると考えています。
最初のフェーズは、リアルの不動産価値を高めるためにメタバースを活用するフェーズで、横浜ランドマーク、東京タワー、東京国立博物館、丸の内のビルなど何社もコラボしてきました。

その次は、バーチャルの価値を高めるためにリアルがあるというフェーズです。
現在は、最初のフェーズの相談が多いですが、街作りもバーチャル先行で作って、そこに価値を持たせていく次のフェーズに入るとさらに面白くなるのではないでしょうか。

田村:
私たちは、リアルの不動産価値をいかに上げるかに力を注いでいるので、そのような発想は全くありませんでした。バーチャルの価値をあげてリアルにつなげるのは良いですね。

加藤:
今まで鬼滅の刃とのコラボやポケモンのテーマパーク、ディズニーのハロウィンなどを手掛けてきましたが、海外からも多くの人がやってきます。あるアニメのイベントでは、スペイン語圏の来場者数が日本人を越えました。
国境を超えたとしても、「そこに行きたい」と思う人が増えれば土地の価値が高まりますから、最強のインバウンドではないでしょうか。

長田:
現在は「バーチャル渋谷」だけでなく「バーチャル大阪」「バーチャルニューヨーク」もあるので、時間をかけずに一瞬で移動できるのも魅力のひとつだと思います。

加藤:
「バーチャル大阪」では、M1グランプリの裏番組としてミルクボーイをお招きして、漫才や解説をしたところ5万人以上が参加しました。この規模感は、ライブツアーモードのリアルタイムで5.5万人、埼玉スーパーアリーナで3万人ですから、バーチャル同時接続としては可能性の感じられる数字だと思います。

リアルの不動産価値を高めてこられた不動産業界にこそ、メタバースのヒントがあるのではないでしょうか。

ー渋谷や大阪は海外の観光客から既に人気が高い年ですが、まだ行ったことのない地方も喜ばれるのではないでしょうか?

長田:
渋谷のように、アイコニックな要素は必要かもしれませんが、チャレンジする価値は非常に高いと思います。
緊急事態で渋谷に全く人がいなくなり、これからどうしようという状況下で、「バーチャル渋谷」を通じてアーティストやクリエイターへの新しい可能性を見出すことができたので、そういった意味合いでも是非チャレンジして欲しいです。

新しい経済圏の確立となるか?バーチャルで起きた出来事がリアルを動かす!

ーバーチャル渋谷で起きた出来事がリアルで連動すればより楽しくなるのでしょうか?

長田:
行政のバーチャルで行ったサービスをリアルでもやるという動きはあります。また、リアルの世界では「街協定」がありますが、バーチャルシティにも街協定があれば面白いのではないでしょうか。

それから、渋谷には「バーチャル区長」がリアルの区長と別にいるのですが、そういう試みも進んでいくでしょう。今までコロナ禍でリアルな体験ができませんでしたが、バーチャルシティで蓄積された経験を生かしていきたいです。

加藤:
買い物に関しては、イベントではデジタルアイテムだけでなくリアルな物も購入できます。例えば、Tシャツを買ったらアバターに反映されて、リアルにも届くので、アバターとリアルの自分がお揃いで楽しめます。今後、バーチャルシティ上のお店で自由に買い物できるようになれば、街の価値も上がるでしょう。

最近、飲食業界と音楽業界とのコラボで、カップ焼きそばがライブ中に投げ銭として飛び交うイベントが開催されましたが非常に盛り上がりました。

長田:
過去に参加したイベントでは、カップヌードルのアバターが歩き回っていて驚きましたが、著作権は大丈夫なのでしょうか?

加藤:
今のところメタバースの著作権は、インターネットと同じです。もちろん、アバターで稼ごうとするなど明らかに悪意が感じられる場合はNGで、カスタマーサポートで落とされてしまいます。
ただ、今のところアバターは悪意のないものが多いので、それほど問題になっていませんが、今後は、YouTubeなどと同じように、審査制になっていくのではないでしょうか。

長田:
最近、あるアーティストのライヴに参加して道に迷っていたら「こっちですよ!」とアバターが案内してくれました。私は、日頃から頻繁にバーチャルの世界で遊んでいますが、今回のコロナ禍で初めてバーチャル空間に入ったという方も多いですし、迷うことも多いでしょう。バーチャルでもリアルな世界と同じように、善意でボランティアとして道案内をする人がいるのに感動しました。

加藤:
長田さんのお話を補足すると、道案内をしていたボランティアは、人型ではなく、クリエイターが矢印のアバターを作って、自らが矢印になって案内していました。現在、クリエイターは、アバターを作って販売していますが、サービスを販売する方にシフトするのではないでしょうか。

「cluster」では、カフェや飲み屋を作ってみんなで集まっていますが、近い将来、そこで働いてくれた人にコインを払うなど新しい経済圏も確立できると思います。

シニアの方ほどVRゴーグルを使って欲しい!メタバース黎明期のビジネスチャンスとは

ーメタバース上での不動産取引についてどうお考えですか?

加藤:
メタバース上の不動産には課題も多く、投機的な意味合いが強いので、私たちの会社では参入していません。

最近、「cluster」では、コインのプッシャーゲームを実装したユーザーがいます。そこに仲間が集まって延々とプッシャーゲームをするのですが、そういった「夜中のゲームセンター」のような場所に価値を持たせる使われ方はあるかもしれません。

ーメタバースはITリテラシーが高くないと厳しいというイメージでしたが、「矢印の人」のように親切なアバターもいらっしゃるならば、不安に感じる必要はないのでしょうか?

加藤:
「cluster」はVRとスマートフォンのどちらでもサービスは受けられますが、VRゴーグルはシニアの方に相性がいいと思います。
私の母親は60代ですが、スマートフォンを使いこなすのが難しいようです。
VRはパスワードさえ入れてしまえば操作は非常に簡単ですから、家から出られない方、事情があって家から出られないなど何らかのビハインドを持つ人やシニアとの相性はとても良いでしょう。

ー最後に今回のセッションの感想はありますでしょうか?

加藤:
今のメタバースのムーブメントは、目指している理想からすれば黎明期で、ヒト・モノ・カネがようやく動き始めたばかりです。

ですから、何が正解なのか今の段階では全く分かりません。正解を模索しながら、新しい文化を誕生させていくことになるでしょう。メタバースでこういうビジネスができるんじゃないかというディスカッションを重ねていけたら嬉しいです。

長田:
メタバースは無限の可能性に満ちています。やってみよう、試してみようという企業がこれからどんどん増えていくと思います。
加藤さんと一緒に運営している「一般社団法人メタバースジャパン」は非営利団体です。
私たちがハブになり、業界同士を繋いで企業がコニュニティで活躍する後押しするために、勉強会やイベント、ルールメイキングなども行っていますので、興味ある方は共に進んでいけたらと思います。

田村:
不動産とメタバースは相性が良いことが分かり、非常に嬉しいです。
私たち不動産賃貸業のターゲットは25〜30代ですが、今後、2000年生まれ以降の世代の世界観をどんどん取り入れて、夢を持ちながら飛び込んでいきたいです。

終わりに

メタバースは、最近の「バズワード」と考えている方も多いかもしれませんが、40年という時間をかけて成熟した人類の挑戦であり、狭い定義に集約して考えるのは難しいかもしれません。

私たちの生活は、スマートフォンの登場によって大きく変化し、もはやスマートフォンのない生活は想像もつかないのではないでしょうか。

今、それを遥かにしのぐ大きな変化がメタバースによって訪れようとしています。今後、メタバースは私たちの社会や経済、ライフスタイルを巻き込む大きなうねりになっていくでしょう。

不動産業界においても、「これがメタバースだ」と特別に認識することなく、生まれた頃から当たり前のようにメタバースの世界に慣れ親しんできた世代が「ターゲット層」になります。

不動産業界のみならず、メタバースを理解することは次の時代への備えであり、大きなビジネスチャンスにつながるでしょう。